人は口実を欲している
口実は悪い意味で使われることが多いけど、良いことにも使えるというお話
口実が持つ力
過去に僕はとある開発チームに所属していて(ほぼフルリモートという環境もあり)、メンバーとは主にSlack上でコミュニケーションを取っていました。メインとなるのはimplという名のついたチャンネルでしたが、投稿数は1日に数件ほどでした。もっとカジュアルにコミュニケーションを取れるように、新しくwaigayaという名のついたチャンネルを作り、そちらをメインにしました。そうしたらこれが功を奏して、雑談から開発上の相談までコミュニケーションの量が格段に増え、投稿数は何倍にもなりました。一時期はその会社の全Slackチャンネルの中で一番の投稿数になったこともありました。自分でも驚いたのが、これは単純にチャンネルの名前が変わっただけで起きたということです。この件で実感したのが「口実」が持つ力の強さです。
その行動は自然か不自然か
ここからは僕の仮説ですが「人は行動を取るときに、それが自然か不自然かを気にする」と考えています。たとえば、よくある話で「わからないことがあったら何でも聞いてください」と言われたら(少なくとも何も言われないよりは)その人に聞きやすくなります。これは「聞いてもいいと言われたから聞いているだけ」という口実が与えられたので、質問するという行為が自然なものになっています。また、普段メンバーから製品や組織に対する改善の意見が挙がってこない現場でも、定期的にふりかえりを行うための会議を用意したら意見が挙がってきやすくなるというのもあります。KPTやYWTなどのフレームワークを使ってふりかえりを行うことで「ワークの一環として意見を挙げているだけ」という口実が与えられるので、普段は言いにくいような意見もその場ではそれを言うことが自然なものになります。むしろわざわざ時間を取っているのに意見を挙げない人の方が不自然に見えるという、普段とは逆転の現象が起こったりします。「口実」を辞書で引くと、言い逃れや言い訳というワードが出てきて、いかにもネガティブなことのようですが、良いことにも使えます。この仕組みを利用して、望ましい行動をより自然に見せるための口実を作ることが何か施策を行うときに有効だと感じています。
命名の重要性
waigayaチャンネルの事例に戻ると、命名が良かったのではないかと思っています。小泉構文っぽくなってしまいますが、waigayaという名前はいかにもワイガヤしても良さそうな感じがします。名は体を表すというか、体を表すような名前をつけることで口実と化した例です。また、他の事例として誰かを称賛したり感謝するメッセージを送る、#thanksというチャンネルを作ったこともありました。それまで人目のつくところでの称賛や感謝を見かけることはあまり多くなかったのですが、このチャンネルでは毎日のようにメッセージが送られるようになりました。別に称賛や感謝はどのチャンネルで送ってもいいはずですが、#thanksチャンネルにそれらが集まります。
ファーストペンギンとセカンドペンギン
もう1つ口実を作る上で重要だと思ったのが「自らやって見せる」ことです。Slackチャンネルの事例も、初めは他の人は様子見の雰囲気があり、まず自分から始める必要がありました。ファーストペンギンというと大袈裟ですが、自分が最初の1人目になる必要があったので、初期は自分が積極的に投稿をしていました。そして、その後はセカンドペンギン、サードペンギンが現れたことで、あとは僕が積極的に関わらなくても勝手に動き出すようになりました。僕はTEDの社会運動はどうやって起こすかというプレゼンテーションが好きです。たった3分で見られるのでぜひ見て欲しいのですが、要は最初の1人目も大事だが、実はその次のフォロワーがすごく重要だということです。「1人のバカをリーダーに変えたのは最初のフォロワー」と話されていますが、ムーブメントはこうして起きるということです。僕の場合は運良くフォロワーが自然と現れましたが、あらかじめ2人目、3人目となる協力者を戦略的に確保しておくというのも手だと思います。